Smiley face
写真・図版
DVやモラハラ加害者の変容を支援する「GADHA」代表の中川瑛さん=2025年5月、東京都内、岡崎明子撮影

 朝起きて、「今日は何もしたくない」と思うと、ワインのボトルを開ける。仕事のアポをすべてキャンセルして、ウイスキー、ストロング酎ハイと立て続けに飲み、酔いつぶれる。

 夕方ごろ、目が覚めて思う。

 「俺は人間として、駄目なやつだ」

 その事実を認めることに耐えられず、再び酒に手を伸ばす。6年前の中川瑛さん(33)の姿だ。

 起業したばかりのコンサルタントの仕事がうまくいかず、ストレスだらけだった。そのイライラのはけ口は酒だけでなく、結婚したばかりの妻にも向けられた。

 妻が、ある俳優を「カッコいい」と言ったときのことだった。

 「そういうことを言うなんて、結婚相手に対して不誠実だ」

 「俺を不安にさせる攻撃的な言葉だという自覚はあるのか」

 酒を飲みながら、妻を問い詰めていく。そんなやりとりが毎晩のように繰り返された。

 結婚前は2人で何時間も散歩したり、午前1、2時まで話し続けたりするほど仲がよかった。

 だが中川さんが酒に酔って絡むようになると、妻は無表情になり、口数が少なくなっていった。

 そんな妻を「辛気くさい人間は、俺と一緒に暮らす資格がない」と責めた。

 高校の教師だった妻は激務と夫からの攻撃が重なり、体調を崩して退職した。

 すると中川さんは、芸術的な才能に恵まれている妻をプロデュースすることに執着するようになった。

 妻が望んでいないのに、デザイン画を描かせてぬいぐるみを商品化、「もっと商品の種類を増やせ」「SNSで投稿を」などノルマを課した。

 妻がノルマが果たせないでいると「俺がこんなにやっているのに、なんで終わらないの?」と説教した。

 泣きながら、できなかったわけを説明する妻の言葉には、一切耳を貸さなかった。

 クリスマスのディナーを予約していた前日も、いつものようにけんかになった。

 そのとき、妻がぽつりと言った。

 「こんなこと、誰も頼んでい…

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